お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 そうでもしないと、このまま倒れそうだったのだ。
 だがその仕草にふと龍一郎は目を細め、そのまま澄花の肩を抱き寄せ、胸の中にすっぽりと抱いてしまった。
 もう一方の手はゆっくりと、澄花の背中を愛おしげに撫でている。


(落ち着かせようとしてくれている……?)


 先ほどの“痛いの痛いの飛んでいけ”といい、このハグといい、龍一郎は見た目とはどこかちぐはぐなところがあるようだ。


(いったいどんなふうに育ってきたんだろう――って、そんなふうに他人を観察するような立場にないのに……私ったら)


 そもそも好きでもない相手とキスをして、甘い口づけに快感を覚えてしまった自分だ。体が先行して心が追いついてことに澄花は恐ろしくなったが、彼はなんとも思わないのだろうか。
 思わずそんなことを考えてしまったが、自分から持ち出したギブ&テイクの関係で、心がどうのなどと考えるほうがおかしい。


(そうよ……約束を守ってくれればそれでいいんだから)


「ごめんなさい……ようやく落ち着きました……好きにしてください」


 ようやく息を整えた澄花がそう告げると――。

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