お気の毒さま、今日から君は俺の妻

「そうか」


 龍一郎はそっと澄花の肩に手を置いて、体を離して顔をまっすぐに見つめると、少し困ったように首を傾げた。


「残念だが、ここで君を抱くつもりはない」
「あ……そ、そうですか……」


 てっきり車の中でこのままどうこうされてしまうのかと思った澄花だが、冷静になって考えれば、いくら外からも運転席からも見えないとはいえ、さすがに車内でどうこうというのは常識外れだ。ありえない。


(私……まるで痴女じゃない?)


 確かに澄花は唯一付き合った相手が春樹ひとりだ。彼はいたってまじめな青年だった。そんな経験があると思われて、すごい技術を見せるよう言われるのも困る。


(恥ずかしい……)


 思わず澄花は赤面し、うつむいてしまった。


「君との初夜は、結婚式が終わった後にする」


 澄花の頭上で、衝撃的な言葉が出た。


(え……?)


 初夜だの、結婚式だの、聞こえた気がしたが、この状況でその単語はあり得ない。
 おそらく聞き間違いだろうと思ったが、澄花はおそるおそる顔を上げた。


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