一途な社長の溺愛シンデレラ

 目を閉じて、鳥のさえずりと小川のせせらぎに耳をすませた。

 深い森のなかで、空を見上げる。木々を揺らす風はひんやりとしていて、空気は驚くほど澄んでいる。

 膨らみかけたイメージを今まさにスケッチブックに描こうとしたところで、思考が中断された。

「ダメだ!やり直し」

 フロアを震わせる声が、ヘッドフォンをしている私の耳にまで届く。

 もっとも、聴いているのは音楽ではなくヒーリング音、つまり山の中で聞こえる自然の音そのものだから、フロアの雑音はほとんどヘッドフォンを通過してくるわけだけど。

「こんな企画で本当にクライアントの心をつかめると思ってるのか!」

 社長がドン、と机を叩いた。

 その拍子に机の隅に置かれたコーヒーのテイクアウトカップがかすかに動く。

 今日の不機嫌レベルは2といったところらしい。

 ちなみに不機嫌レベルはMAXが3だ。 

< 3 / 302 >

この作品をシェア

pagetop