一途な社長の溺愛シンデレラ
「幸いまだ時間はある。コピーとデザイン案は後回しでいいから、ぎりぎりまで粘ってクライアントの意向に沿った企画を練るんだ」
「はい」とか細い声を出して、クリエイティブ・ディレクターの西村さんが自分の机に戻っていく。
地上33階建て。各階のオフィスフロアの面積は400坪を超え、12基のエレベーターが常に稼働しているという仲野坂駅のシンボルであるオフィスビル、通称レインボータワー。
――のとなりに建つ8階建ての石原ビルの4階に、デザート・ローズ制作会社は入っている。
フロアの坪面積は約30坪、エレベーターはもちろん1基だ。
南向きの大きな窓を背にデスクに座っていた社長が立ち上がって私のほうへ歩いてくる。
「……沙良(さら)。おまえは何をやってるんだ?」
鋭い眼光を私に向けてくる結城遼介(ゆうきりょうすけ)は5年前、若干23歳のときにこの会社を設立した代表取締役社長であり、クリエイティブ・プロデューサーであり、私を拾ってくれた恩人でもある。