一途な社長の溺愛シンデレラ

「帰るの?」

「……帰るよ」

 どことなく決まりが悪そうに言ってから、社長は「あ、そうか」と気づいたように私の背後に回った。

 ふいに背中のファスナーを下ろされてびくりと背筋を伸ばす。

 社長は自分が着ていたジャケットを私の肩にかけて苦笑した。

「まずは自分で着脱できるようにならないとな」

 そう言って私の頭をいつものようになで、革靴に足を差し込む。

「じゃあな、おやすみ」

 なんだか納得できない気持ちのまま、それでもつられるようにして「おやすみ」と答えると、社長は優しい笑みを浮かべて玄関のドアを開けた。

 広い背中が外廊下に消え、重たいドアがゆっくり閉まる。

 部屋の中から完全に音が消えて、私は壁にもたれた。

 肩にかけられたジャケットから社長の匂いがして、なぜだかひどく、胸が締めつけられた。





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