今宵、エリート将校とかりそめの契りを
忠臣はハッとしたように表情を動かし、何度か首を縦に振って理解を示した。


「もちろんです。今夜は女中を交替で……」


寝室から出て続き間に向かう医師の後から続きながら、忠臣がそう言うのを、


「あ、あのっ!」


琴は声を張って遮った。
ドアの横に佇む琴を、彼らは続き間から大きく振り返る。


「奥方様、なにか?」


忠臣が、眉間で眼鏡の位置を軽く直しながら、琴に質問を返した。
その奥で細めた瞳には、やはり琴への不信感が滲んでいる。


真っすぐ向けられた視線からそれを強く感じ、琴は一瞬怯みながらも、ゴクッと喉を鳴らした。
思い切ってグッと顎を上げる。


「私に、つかせてください」

「え?」


忠臣が訝しげに首を傾げ、短く聞き返してきた。
むしろその反応に鼓舞され、琴は大きく息を吸って、先ほどよりも力強い声で繰り返した。


「総士さんの看病は、私にさせてください」

「……琴?」


忠臣よりも怪訝そうな声が、琴の背後から聞こえる。
肩越しに視線を向けると、明らかに困惑した表情の総士が、左肘を支えに上体を起こしていた。


背中に突き刺さるような総士の視線に、琴はわずかに顔を歪め、キュッと唇を引き結んだ。
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