今宵、エリート将校とかりそめの契りを
その時、総士の処置を終えた医師が、使った器材の片付けを始めた。


「傷は一太刀。幸いそれほど深くはない。しかし右肩から上腕に及んでいるので、しばらくはしっかり固定して動かさぬよう。無理をすれば傷が開き、治癒が遅れます」


医師の指示を耳にして、琴はハッと我に返った。
いつの間にか足元に伏せていた顔を上げ、ベッドの上の総士に視線を動かす。


「夜分に呼びつけて、申し訳ない。助かった。ありがとうございます」


総士が横たわったまま首だけ捻り、処置を施した医師に礼を言う。
初老に差しかかる名取家のかかりつけ医は、総士の静かな謝辞にわずかに笑みを浮かべ、何度か頷いて応えた。


「総士様、どうぞ無茶はなさらぬよう。いくら鍛え抜かれた軍人の身体でも、そう何度も斬りつけられれば痛手になります」

「……心得ておく」


医師の苦言に、総士が苦笑した気配が伝わってくる。
彼らのやり取りを聞いていた琴は、このように総士が襲撃されるのは初めてではないことを直感した。


「痛み止めが切れると、熱が出るやもしれません。こまめに汗を拭いてください。この季節の夜気は身体に障る」


医師の次の指示は、硬い表情の忠臣に向けられたものだった。
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