今宵、エリート将校とかりそめの契りを
忠臣の方は、いつもと変わらず淡々と挨拶をして、スクッと立ち上がる。


「あ、ああ」


総士は地味に動揺しながら返事を返し、自分に向き合う忠臣を目で追う。


不審そうな目をする総士がなにを言いたいかは、見透かしているのだろう。
忠臣は小首を傾げてクスッと笑いながら、「申し訳ありません」と謝った。


「奥方様を信用してよいか判断が揺れましたので、もしもの際はすぐにお助けできるよう……と、一晩こちらで待機させていただきました」

「は?」

「まあ、すぐドアの向こうに夫婦の寝室があるというのに、いくらなんでも無粋であろうとは思ったのですが。総士様の怪我の状態を考えれば、今夜は問題ないだろうと。……申し訳ございません」

「……謝る顔じゃないだろう」


なにやら物知り顔でニヤけた笑みを浮かべる忠臣にチッと舌打ちをして、総士はガシガシと頭を掻いた。
気を取り直す為に一度大きく息を吐き、今度はしっかりと顔を上げる。


「ちょうどよかった。悪いが着替えを手伝ってくれないか」


そう言いながらドアから離れ、総士は続き間の奥の箪笥に足を運んだ。


「もちろんです」


まだニヤニヤしている忠臣の視線を感じながら、箪笥から予備の軍服を取り出す。
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