今宵、エリート将校とかりそめの契りを
女性の目を惹くのも無理はない。
陸軍将校一の美男子は、容姿だけでなくその人となりも申し分ない素敵な人だ、と今の琴は素直に認める。


パレードで初めて実物を見た時は、ただ憎しみばかりが先に立ち、この表情の乏しい涼やかな横顔に、感情を逆撫でされた。
しかし、今ならわかる。


総士は誠実だから、無駄に女性に愛想を振り巻かない。
中尉として勇往邁進する人だから、威厳を見せつけるようなパレードに参加するのは、本意ではないのだろう。


そんな彼が人目を気にせず堂々と琴の手を引いて歩いている。
自分が総士にとって特別……いや、それ以上の存在だと言われているようで、ただドキドキしてしまう。
彼に『惚れた』と言ってもらえて嬉しいのに、彼に見惚れる数多の女性に申し訳ないような……琴は心の中で妙な葛藤と闘う。


赤く染まった頬を隠すように、そっと目を伏せた。
それに気付いた総士が、「ん?」と足を止める。


「どうした? 琴。疲れたか?」

「えっ!?」


突然名を呼ばれて、琴の鼓動はドキッと跳ね上がる。
彼に聞き返した声は、随分とひっくり返ってしまった。
総士はそんな琴の反応に驚き、ギョッと目を丸くしている。


「あっ、あっ……! す、すみません。なんでもないんです」


パチパチと瞬きをする総士に慌ててそう返すと、彼はまだ不思議そうに首を傾げた。
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