今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「本当に?」


探るように問いかけられ、琴は焦って目を泳がせる。


「ほ、本当です。っ、ほら、総士さん! 早くお屋敷に戻りましょう。肩の傷にも障りますから……」


改めてドキドキしてしまった自分を誤魔化そうとしたものの、琴は自分の言葉で総士が怪我をしていることを思い出した。
大事なことなのに、頭から抜け落ちていた自分が恥ずかしい。


(私ったら……今日は浮かれてばっかり)


激しい自己嫌悪で、しゅんと肩を落とす。
しかしすぐにグッと顔を上げ、総士に引かれていた手を今度は自分から引っ張ろうとした。
その時……。


「……!!」


なんとも間の悪いことに、琴の腹の虫がギュルルルル……と唸るように鳴いた。
慌てて空いた手で腹を押さえるが、悲しいことに、しっかりと総士の耳にも届いてしまったようだ。


「……腹減ったのか?」


さらりと問われた上に真顔で見下ろされてしまい、琴は耳まで真っ赤に染まる。


「ご、ごめんなさいぃ……」


あまりの恥ずかしさに、顔から火が噴きそうな思いで、琴は謝罪の言葉を弱々しく消え入らせた。


(なんでなんでなんで……! こんな時なのにお腹が空くの!?)


この場から消え去りたい気分で身を縮め、琴は勢いよく顔を伏せた。
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