今宵、エリート将校とかりそめの契りを
日本の英雄たちの姿を一目見んと集まったたくさんの人々が、通りの両端を埋め尽くしている。
色とりどりの紙吹雪が舞い、『日本万歳! 陸軍万歳!』といった歓声があちらこちらから湧き起こる。


時折、フォード車の後部座席の窓から陸軍大将が身を乗り出し、集まった見物人たちに威厳たっぷりに腕を振る。
煽られるように歓声が湧くと、護衛に就く将校たちも優越感に浸るかのように胸を張り、祝賀ムード溢れるこの華やかなパレードに酔いしれている、そんな雰囲気。


しかし、興奮冷めやらぬパレードの中、終始ほとんど表情を変えず、ニコリともしない将校がいた。


スッと通った鼻筋に、薄い唇。
目は切れ長で、瞳は濃い茶色。
動かない表情と相まって、とても涼やかな印象だ。


艶のある漆黒の髪は、前髪が目元を掠めるほど伸びていて、馬が歩を進める度に、その振動でサラッと揺れる。
寸分の乱れもない軍服の上からフロッグコートを纏い、馬上でピンと背筋を伸ばす堂々たる姿は、気品に満ち溢れている。
他のエリート将校とは格の違いを感じさせる。
見目麗しく、見物人……特に女性の視線を一身に浴びていた。


パレードも中盤を迎え、将校の馬が交差点に差しかかった時。
彼が通り過ぎたすぐ横の人垣から、少し高い澄んだ声が、凛として響き渡った。
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