今宵、エリート将校とかりそめの契りを
琴はギクッとして、慌てて一歩後ずさった。


「それとも自分で選ぶか? 客を取る遊女になるか。それとも俺の妻となるか」


離れた分だけ距離を詰める総士に戸惑い、琴はさらに一歩下がった。


琴自身、まともなことを言っているのは忠臣の方だと思っていた。
今の自分を妻にしたところで、総士にはなんの利点にもならない。


(縁談話を断る口実なんて、この人にはどうでもいい利点のはず。だったら……本当はなにが目的なの?)


まったく理解できない分、疑心ばかりが胸に広がる。
琴は警戒心も露わに、総士を睨みつけた。


そんな彼女の瞳に宿る光に、総士はフッと小さく息を漏らして笑った。
そして大股で踏み込み一気に距離を詰め、怯む琴の腕を掴み上げる。


「っ!」

「俺を殺したいんだろう? 俺は、次の機会を与えてやると言ってるんだ」


抵抗して声をあげようとした琴に、総士は身を屈めて耳打ちした。
その言葉に、琴もビクッと身体を震わせる。


「な……に?」


目線を横に動かし、琴は総士にそう訊ねた。


「家族の仇を討ちたいなら、俺の妻になり、俺を本気で惚れさせてみろ。俺は惚れた女になら、この命、喜んでくれてやる」

「!?」


あまりの言葉に、琴は咄嗟になにも言えない。
目の前で総士の唇が動くのを見ていたのに、言い返す言葉も見つからない。
< 31 / 202 >

この作品をシェア

pagetop