きみに初恋メランコリー
「ま、時期的にはちょっと遅いんだけどさ。午後から海行こうってことになってね」

「は、」



思わず、2個めのバターロールを取り落とすところだった。

そんな俺の様子には気づいておらず、まどかはさらに続ける。



「こっから電車で7駅くらい行ったところに、『美丈浜』ってあるでしょ? 泳げないけどキレーなとこ。そこで若さにかまけてバーベキューと花火やろうってね」

「へー、いいわねぇ。鷹人(たかと)くんと?」

「うん、鷹人もいるけど。大学の友達何人かと~」



ふたりの言う『タカト』とは、まどかの彼氏のこと。

そして、まどかが言った『美丈浜』は……まさに今日、俺が花音ちゃんを連れて行こうとした場所そのものだ。

俺はぺちゃくちゃと会話をするまどかと母さんの輪には入らず、大口でパンと麦茶を腹の中に納めると席を立った。

ハムエッグを乗せていた皿とコップをシンクに置いて、テーブルの横をすり抜ける。



「あ、奏。アンタめずらしくこんな時間から起きて、どっか出かけるの?」



ドアを開けて廊下に出ようとしたところで、母さんが思い出したようにそう訊ねてきた。

ちらりと首だけで振り返ると、まどかもまた、こちらを見つめていて。



「……なくなった」



──パタン。ドアが音をたてて閉まる。

そして俺はまっすぐ、自室へと向かった。
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