きみに初恋メランコリー
部屋に入って、まず机の上のスマホを手に取った。

メッセージアプリから『月舘 花音』の名前を探して、トーク画面を表示させる。



「………」



1度、固く目を閉じて、深く息を吐いてから。

俺は、電話の呼び出しボタンを押した。



「……あ、もしもし? ……うん、おはよう。ごめんね、こんな時間に。……うん、それでね、今日の海のことなんだけど……実は急に外せない用事できちゃって、申し訳ないんだけど行けなくなっちゃったんだ。……ありがとう。本当に、ごめんね。……うん、それじゃあまた、学校でね」



相手の返事を聞いてから、ディスプレイにある通話終了ボタンを押す。

俺は握りしめたスマホを額にあてるようにして、またぎゅっと目を閉じた。



『……連れてってあげようか?』

『行きたいです!!』



約束をした日の、花音ちゃんのとてもうれしそうな笑顔が、まず頭に浮かんで。



『行けなくなっちゃったんだ』

『……そう、ですか……はい、わかりました。……あの、先輩。気にしないで、くださいね』



だけどそれは、先ほどの電話で聞いた、無理に強がったような悲しげな声音に、かき消された。



『そーちゃんにも紹介するね。この人、あたしの彼氏なの』

『こんちは、藤原鷹人です』



あのふたりが並んでいるのを初めて見た日から、もう、十分すぎるほど時間は流れたのに。



「……ッごめん、ごめんね、花音ちゃん……」



でも、まだ、苦しくて。

俺はあのふたりを、平気な顔でなんて、見ることができないんだ。
< 103 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop