きみに初恋メランコリー
突然聞こえた第三者の声に、バッと後ろを振り返った。

そこには、なんと──。



「そ、すけ、せんぱ……」



どうして、ここに、先輩が。

呆然とするわたしの視線の先で、奏佑先輩はゆっくりと、こちらに近づいてくる。

刹くんが、不満げに顔を歪めたのがわかった。



「きみさ、前に会った転入生だよね? ……こんなとこで、嫌がってる女の子の腕無理やり掴んで。そんなに楽しい?」

「……取り込み中なんです。先輩には、関係ないと思うんすけど」



すぐ目の前まで来た先輩と刹くんとの間に、なんだか火花が散っているように見える。

先輩は刹くんの言葉に一瞬だけ眉を寄せて、だけどすぐに、にこりと笑みを浮かべた。



「関係なくはないね。俺、そのコのことめちゃくちゃかわいがっちゃってるから」

「は……」

「だからさあ、そんなふうに乱暴に扱われちゃってるのを見ると、ものすごく腹立たしくて仕方ないんだけど」



刹くんは、チ、と小さく舌打ちして、腕を放してくれた。

それからわたしを一瞥し、つぶやく。



「花音。……ちゃんと、考えて」



そのセリフに、わたしは何も答えられない。

だけども彼は最初から期待はしていなかったのか、すぐに踵を返して中庭を離れて行った。

この場には、わたしと、奏佑先輩だけが残る。
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