きみに初恋メランコリー
「……あの、先輩」



──ああ、なんだろう。

胸が、ざわつく。



「先輩、は……まどかさんに、告白、したんですか?」

「──、」



ぎり、と、ピアノについた右手を握りしめる。

ゆっくり、俺は口を開いた。



「……どうして?」

「あ、の、すみませんわたし、昨日まどかさんと会ったとき……その、奏佑先輩のすきな人がまどかさんだって、気づいてしまって」

「………」

「それでもし、自分の気持ちを、まどかさんに伝えていないんだとしたら……それはすごく、勿体無いことだと、思って」



しどろもどろ、だけどはっきりとそう話す彼女を、俺は黙って見下ろす。

自分が今、激高しているのか、それとも冷静なのか──それすらも、わからなくて。


……勿体無い? 何が?

だって俺は、もう十分すぎるほどわかってる。

まどかにとって、俺が恋愛対象ではないことを、嫌というほど知っている。



「わたしなんかに言われても、説得力ないのは、わかってるんですけど……自分の、気持ちを……ちゃんと伝えないと、きっと後で、後悔すると思うんです。気持ちを正直に伝えることで得られるものって、きっと、あると思うんです」



なのに、どうして。

どうして、“きみが”、それを言うの?
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