きみに初恋メランコリー
そんなわけにはいかない、と引き下がらない彼女と、その後しばらく問答は続く。が、最終的に俺が花音ちゃんをどうにか丸めこんだ。

言い方は悪いが、笑顔で穏便に相手を説き伏せるのはわりと得意な方。そんなわけで、今回も大いにそれを利用させてもらう。



「……それじゃあ、ごちそうになります。ありがとう、ございました」



表情は困ったような顔をしたまま、最後に何度目かのお礼を口にする。

この場を離れた花音ちゃんは未だ釈然としない様子で一度だけ振り向き、またぺこりと頭を下げて階段を駆け上がって行った。

ひらひらと手を振りつつそれを見送った俺に、乾が横目で視線を寄越す。



「わっるいオトコだねぇ、長谷川くん」

「は? なんで」

「やさしくしすぎるのも考えものでしょ。あんな純粋そうな女の子たぶらかしちゃって」

「たぶら……って。馬鹿言うなよ」



最大限の呆れ顔をして、乾の肩を小突く。

だって目の前であんな困った顔されたら、何とかしてあげたいと思うもんだろ。

しかも初対面時の脆く儚げな印象があるからか、花音ちゃんに対しては、余計にその思いが強く働く。


彼女の去った階段をなんとなくぼうっと見上げていた俺を、乾が一瞥した。

それから首の後ろに右手をやり、軽くため息をつく。



「ま、いいけど。長谷川がフェミニストだろうがロリコンだろうが俺には関係ないし」

「オーイ」

「それでやさしい長谷川くん、俺の分のパンは?」

「きみは自分で買いたまえ」

「オーイ」



──そう。

やさしくしたいと、庇護的な思いにかられるのは……別に彼女“だから”というわけでは、ないのだから。
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