きみに初恋メランコリー
「──ちゃん、花音ちゃん?」

「……え?」



自分の名前を呼ばれて、ハッとする。

気づくと、窓枠に腰かけている奏佑先輩が、不思議そうな表情でこちらを見つめていた。



「花音ちゃん、どうしたの? ぼーっとしちゃって」

「あ、いえ……すみません。なんでもないです」

「そう?」



わたしの返事に緩く笑みを浮かべ、先輩は再び窓の外に目を向ける。

……馬鹿。せっかく奏佑先輩と一緒にいるときに、考え事するなんて。

ポーン、と人差し指で鍵盤を押しながら、思わずため息をつきそうになっていると。



「あ!」



不意に先輩が、何かに気づいたように声を上げた。



「おーい! なーかーはーまー!!」



突然大声を出し始めた先輩に、わたしは何事かと首を巡らせる。

椅子を下りて窓へと近づけば、窓の外を見下ろした地面に、知らない男の人が立っていることがわかった。

どうやら奏佑先輩は、その人に声をかけていたらしい。
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