お見合い相手は無礼で性悪?


『ごめんなさいね、記憶にないわ』


少し感じ悪くバッサリ切ってやったのに


彼はこちらを見ないまま

『こちらも同じですよ』

低い冷たい声をため息と共に吐き出した


・・・なんなのこの態度!

ムカついてもこれ以上は父に恥をかかせる
イライラした時は甘いものが一番とケーキを思い出し

『では、私は下のフロアで仕事がありますので』

引き止める父を無視して扉を出ると
ケーキを持って5階へ降りた


『愛華さん』


私の姿を見つけて濱田トレーナーが駆け寄ってきた


『これ、皆と食べようと思って』


ケーキの箱を差し出すとそれを私の手からサッと取り上げ事務の女の子に渡した

『ちょっと、良いですか?』

柔らかな声と裏腹な程、強引に手を引かれ
隅のミーティングルームに連れ込まれた


『どうしたの?トレーナー?』


『今日は社長室に行かない方が良いですよ!』


トレーナーは私の両方の肩を持ち諭すように何度も繰り返す


『ん?今、行ってきたところよ?』


「えっ!」


私の言葉に大袈裟に驚いたトレーナーは
さっきとは違う低い声で


『で、どうするんですか?』
詰め寄ってきた


『どうする?どうするも何も、はじめましてって挨拶しただけで降りてきたんだもん』


『・・・えっ挨拶、ホント?』


いつもは私に質問なんてしたことないくせに
何度も何度も確認する


『なんなの~もぉ~』


プゥと膨らませた頬と尖らせた唇を見て
フッといつもの八重歯を見せたトレーナーは


『いえ、私の勘違いで・・・すみません
さ、ケーキ食べましょう』


強引に連れ込んどいて
アッサリと扉を開けた

・・・なんだろう

巡る思いも目の前のケーキには勝てず
フロアの皆と一緒に甘い誘惑に溶けた


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