漆恋を解く僕たちは。
一つ目の出会い
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「…人違い、なるほど。」


頭では別のことを考えながらとりあえず彼女に相づちを打つ。


俺は現実離れした夢は見ない主義だ。


主義というかそういうタチだ。


見る夢といえば、空をぼんやり眺める夢とか。


むしろ最近はバイトとか採用試験に向けた勉強とかでへとへとになって倒れ込むみたいに寝てたから夢なんてしばらく見てない。


(こんなリアルな夢なかなか見れないよなぁ…


だったら…わざわざ人違いにしなくてもよかっただろ…。


まぁ、夢でも人との出会いは大切にした方がいいよな。)


自分の想像力の豊かさに思わず苦笑してしまう。

「…ごめんなさい…。」



「はは、気にしないでください。

きっと何かの縁ですよ。

俺の名前は゛筧悠也゛と言います。」


「――――…筧さん……」



彼女は驚いたような、どこか納得したような顔をしている。


「ええ。俺のことをご存じですか?」


「いえ、ただ…ほんの少し、あなたによく似た方を知っていて。驚いてしまったんです、…ごめんなさい。」



なんて寂しそうな顔をするんだろう。


それにさっき…、キスを迫ってきた時は、すごく幸せそうな顔をしていた。


誰かのことを考えてこんないろんな気持ちになれるって、きっとその人は彼女にとってすごく大切な人なんだろう


「その方はあなたにとって大切な方なんですね。」


なんだか俺の方まで切なくなってくる。


「…ええ。…………。

それよりも、もっとあなたのことを聞かせてください!

私、ここで誰かと会えたことが凄く嬉しいんです!」


俺に会えたことが嬉しい、そう言って喜んでもらえることが純粋に嬉しかった。


とりあえず俺はひと通りの自己紹介をした。


筧悠也«かけい ゆうや»、23歳。

育った田舎町の話、好きな食べ物や好きな動物の話、

10歳の頃に父を亡くしてそれからは母と二人で暮らしてきたこと、

つい最近国立大学の語学部を卒業して今年の春から英語の教師として勤めること。

趣味は料理と写真を撮ること、それから本を読むこと。

「特技は…ピアノ、です」


彼女は上手に相槌を打ちながら、俺の話を楽しそうに聞いていた。


「嬉しい!私も本が大好きなんです、仲良くしてくださいね。

―――――――私の名前は紗夜と言います」


そう言って微笑む彼女は花が開くみたいにキラキラしていて…

彼女に心を掴まれるのは当然のことのように思えた――――…




それから俺たちはいつの間にか夕日が浮かんだ空を見ながら笑いあった
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