契約結婚なのに、凄腕ドクターに独占欲剥き出しで愛し抜かれました
心がざわつく。上村先生、さっきキスしようとした…?

「凛」

聞き慣れた声とともに腕をぐいっと引っ張られ、ハッとした。

「今終わったところか? 一緒に帰ろう」

「悠さん…」

いつも通りの悠さんの穏やかな顔にホッとして、思わず彼の服の裾を掴む。

「なんで走ってたんだ? そもそもこんな時間に医局に…」

「上村先生とちょっとお話をしていて」

そう言うと、ピリッと空気が変わったのがわかった。

険しい顔をした悠さんが私の肩を掴む。

「あいつ、なんの用だったんだ? なにかされたのか?」

「いえ、なにも…ただ、馴れ初めを聞かれただけです」

なんの後ろめたさもないのに、彼の顔がうまく見られない。

「凛」

顔を上げた瞬間に、悠さんの腕に閉じ込められた。

「悠さ…」

「あいつには近づくな」

いつもよりずっと低いトーン。

私に対して怒っているわけじゃないことはわかるけど、どうして…

「…上村先生となにかあったんですか?」

私の質問に悠さんは答えず、少しの沈黙のあと、静かに腕は離れた。

「…今日は遅いから、何か食べて帰ろうか」

そう言った悠さんの声はさっきと違って穏やかで、ますますわけがわからなかった。

< 86 / 175 >

この作品をシェア

pagetop