いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


そして三十分後、高速を飛ばしていち君がやってきて、チャイムを鳴らす。

仕事の後すぐに来たのか、彼はワイシャツにネクタイを締めた姿で、玄関に入るなり私を抱き締めた。


「い、いち君? 何かあった?」


驚きつつ受け止めるように彼の背中に腕を回すと、彼は耳元で緩く頭を振った。


「……何もないよ。いつも通り」


何もないはずない。

だって、私を腕の中に閉じ込める刹那、見えた表情は少し泣きそうだった。

でも、いち君は誤魔化す。


「ただ、実感したかったんだ。沙優と付き合えたこと」


いきなりごめん。

そう言って私を解放すると、笑みを浮かべた。


「本当に?」


真っ直ぐに、彼の瞳を見つめる。

これでまだ誤魔化すのなら、彼の中で話せない、話したくない理由があるのだろう。

なんでもないよとまた言われたら引くつもりで首を傾げたのだけど、いち君は困ったように眉根を寄せた。


「……本当は、少し、父と揉めた」


父親と何が原因で揉めたのか。

それを聞こうとは思わなかった。

いち君にとっては、苦手意識のある父親と何かで揉めるということだけでも、心に負担がかかるのではと考えたからだ。

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