いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


──どんな会話で和まそうとしても、いち君の目の奥が笑っていない。

テラスでの一件から、今、家に送ってもらっている彼の車内でもそれは継続された。

このままでは良くないと思い、私は思い切って口を開く。


「あの、今日は聖司が変なこと言ってごめんなさい」


でも、どうやら謝り方を間違えてしまったようで、いち君は運転しながらまたもや口だけで微笑んだ。


「まるで、彼が今も君の彼氏みたいな謝り方だな」

「なっ、そんなわけ」

「ないってわかってる。でも……腹が立つんだ。彼の言葉だけじゃなくて、俺がずっと沙優の側にいられてたら誰にも渡さなかったのに。自分で決めたことだから仕方ないんだけど、ね」


段々とその表情を固くしていく彼の横顔を、私は静かに見つめていた。

決めたこと。

引っ越すことを、いち君が決めたというのだろうか。

一体何があったのだろう。

彼が話してくれるまで待つと決めた私に、それを聞くことは憚られて無言でいると、赤信号でブレーキを踏んだいち君の視線が私を捉えた。


「同窓会、彼もいるんだよね」

「うん。多分」


そう答えてから、彼が聖司とのことを心配しているのだと悟る。

私たちは恋人じゃない。

だけど、私は……


「私は行かないよ」

「え?」

「いち君を心配させるの嫌だし」


何より、いち君からいただいた仕事に追われてそれどころじゃないだろうから。

戯けて続けると、固かった彼の表情が緩み。


「ありがとう沙優」


ようやく、いつもの柔らかい笑みを見せてくれたのだった。
















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