いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


辿り着いたBARはレトロな外観が魅力的な店構えだ。

前面の壁はガラス張りになっていて、店内の様子が見え、比較的入りやすい雰囲気を醸し出している。

中へと足を踏み入れると、カウンター席とテーブル席がいくつか見えた。

ただ、どこにもいち君の姿は見えず、もしかしてお店を間違えたのかと不安に駆られた私は連絡をして確かめようと肩に掛けたカバンに手を入れた。

すると、バーカウンターの中に立つ五十代くらいのバーテンダーさんが「東條様をお探しですか」と声をかけてくれる。


「はい。もしかしてもう帰りましたか?」

「いえ、東條様はいつも奥のお部屋をお使いになられますので、そちらへどうぞ」


低く渋い声でそう言って、バーテンダーのおじ様が「あちらです」と部屋の方を手で指し示した。

見れば確かにそこにはどことなく高級感漂う扉が一つあり、薄暗い照明の中、私は扉に歩み寄るとノックをする。


「真山です」


流れるジャズの音楽に自分の声を重ねると、程なくして扉が開いた。

現れたのは、無邪気な笑顔を浮かべる男性。


「やあ、君がはじめの想い人か。はじめまして、羽鳥です。彼とは高校からの付き合いなんだ」


羽鳥。

高校。

二つのワードで、私は水族館で聞いたいち君の高校時代の話を思い出した。

いち君が言っていた仲が良い友人の名前が羽鳥だったはずだ。


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