恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!
 片付けをすることで少しずつ冷静さを取り戻してきた。キッチンとリビングと言う物理的な距離も私を落ち着かせる理由の一つだ。
 洗い物を片付けながら考えたけれど、やっぱり彼の行動の真意が分からない。

 ハグだって、家族ならするかもしれないけど…

 どんなに考えてたって堂々巡りで答えが出ない。流れていく水を目で追いながらこっそりため息をついた。
 ちょうどその時火に掛けていたやかんのお湯が沸いたので、私は一旦考えることを止めた。

 お誕生日に淹れるコーヒーを失敗するわけにはいかないよね。

 手元の動作だけに集中することに決めた。


 「お待たせしました。」

 ソファーの所でワインを飲みながらアンジュと遊んでいた修平さんの所に、淹れたてのコーヒーを持って行った。

 「それ…」

 「改めて、お誕生日おめでとう。修平さん」

 私が両手で持ったお盆の上にはロウソクを立てたケーキが。
 ケーキの上のロウソクは【29】という数字になっている。

 「わざわざケーキまで用意してくれたの?」

 「甘いもの苦手だったらごめんなさい。」

 「甘いものも、好きだよ。」

 修平さんと目が合うと、彼の瞳が甘さと意地悪さを含んでいるように見えて、慌てて目を逸らした。

 「そ、そっか、良かった。買ったやつだから味は保障出来るよ。」
 
 「杏奈はお菓子作りはしないの?」

 「ううん、お菓子作りは割と好きな方。でも今回は道具が無かったし、修平さんの好みが分からなかったからお店のにしたんだ。」
 
 「なるほど。じゃあ、次は杏奈の作ったケーキが食べてみたなぁ。いい?」

 「えっと………機会があったら作るね。」

 なんだか修平さんの声が今までよりも甘く艶を含んでいるような気がして、彼の方を見れなくて目線の置き場をキョロキョロと探してしまう。
 間がもたない様な気がして、私はロウソクに火を着けた。
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