恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!
 さっき頬に触れたのは、アンジュの鼻先じゃなくて…

 その事実に考えが辿り着いた瞬間、「それ」が触れたところに手を当てた。
 その場所から火が出てるかのように熱くなっていく。

 だんだんと暗闇に目が慣れた時、私の鼻先数十センチのところに、彼の顔があるのがぼんやりと見えてきた。
 暗闇の中でも彼が私をじっと見つめているのをなんとなく感じる。
 
 彼の顔が私にそっと近付いてくる。
 顔を背けることも目を逸らすことも出来ず、彼が近付いてくるのをスローモーションのように見つめていた。
 静寂の中で、私の心臓の音だけが鳴り響いている。

 修平さんの唇が私の頬をそっとかすめ、そのまま私の肩にコテン、と自分の額を置いた。

 「まいったな……」

 私の肩に寄りかかった彼は、弱り切ったような甘えたような声色で呟いた。
 私は彼の額が置かれた肩に、その熱を感じて身動きできずにいる。
 彼が「は~っ」と息をつくだけで私の体はビクリと跳ねあがった。

 まいったのは私のほうなんだけどっ!

 そう叫びたい気持ちに駆られたけれど、喉が張り付いて口を開くことすらままならない。
 声を出すことが出来ない代わりに、目に涙が浮かんでくるのが自分でも良く分かった。
 
 固まったままでいる私からそっと体を離した修平さんは、触れるか触れないかのギリギリのところで止まる。
 その瞳がしっとりと濡れたように光っていて、甘く揺れている。
 その熱情の宿った瞳が私の瞳をじっと見つめて、そして「ふっ」と息をついてから離れて行った。


 「ケーキ、食べようか。」

 いつもの優しい目をして微笑みながら、そう言った彼に、私は「うん。」と答えることしか出来なかった。
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