恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!
部屋の灯りが全て消えた時、俺の理性の壁も消えてなくなった。
杏奈の頬にそっと唇を押し当てる。挨拶代わりの額へのキスよりも少し長く。
彼女の頬から離れた俺の頭に、彼女の手がそっと乗った。撫でようと動きかけた手がピクリと止まる。
そのまま動きを止めてしまった杏奈を、暗闇の中じっと見つめた。
彼女も俺を見つめている。少しずつ暗さに目が慣れつつある今、俺たちの瞳はしっかりと合っていてどちらとも逸らそうとしない。
甘い蜜に吸い寄せられるように、彼女の唇に顔を近付けた。
彼女の唇まで十数センチの時、杏奈の瞳の奥がかすかに揺れるのに気付く。
ダメだ、踏みとどまれ!
俺の中に残った最後の理性が警鐘を鳴らした。
なんとか軌道を逸らした俺の唇は杏奈の頬をかすめ、俺の顔は彼女の肩へと着地した。
彼女のことが愛しくて守ってやりたいのに、強引に奪ってしまいたくもなる。
この気持ちの正体を、いい加減認めなければならないだろう。
俺は、杏奈のことが好きなんだ。
杏奈への思いを自覚してしまった今、一緒に暮らしていく中でいつまで理性が持つだろうか。
「まいったな……」
思わず心の声が呟きとなって漏れた。
彼女の肩に額を置いたまま「は~」と溜め息を着くと、その肩がピクリと跳ねあがる。
額を持ち上げて杏奈を見つめると、やっぱり顔を赤くして瞳を潤ませている。
だから、それがやばいんだって。
心の中で突っ込むと、我ながら可笑しくなって「ふっ」と笑いが漏れた。
ちゃんとけじめを着けたら、だな。
彼女への宣戦布告は今は心の中だけに留め置くことにした。