恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!
誕生日の晩餐会が終わり、自分の部屋へと戻ってきた。
開け放したカーテンの間には、今は葉だけになってしまったあの桜がよく見える。
朧月に照らされている葉が強い風にあおられている。
杏奈のお陰で祖母の生前みたいな楽しい誕生日を過ごすことが出来た。
思えば去年も一昨年も、誕生日の夜は酷く不安定だった。
祖母が息を引き取った時のことを思い出すと、今でも心の奥が締め付けられるように苦しくなる。いつもは忘れているふりをしている喪失感に襲われて、この家にいる自体も辛く感じてしまい、アンジュを連れて夜のドライブに出たこともある。
特にあの葉桜が、俺の封じている感情を解き放そうとする。
春の風が強く吹いて、わずかに残った花びらをすべて宙に舞い上げていく。
時折カタカタと家の窓が鳴っている。
二年前のあの夜もこんな春の嵐だった。
今年は杏奈のお陰で温かい気持ちで過ごせた誕生日だった。
でも、春の嵐が俺の心の奥底に眠っていた寂寥感を呼び起こす。
庭の桜を見ているだけで苦しくなる胸を押さえた。
やっぱり今夜も眠れないのか…
祖母の愛した桜の樹をじっと見つめながら、胸の痛みに耐えていると、ふと、杏奈のはにかむような笑顔が頭をよぎった。彼女の笑顔はいつだって俺に安らぎをくれる。
少しだけ和らいだ痛みに、瞳を閉じた。