恩返しは溺甘同居で!?～ハプニングにご注意を!!

　スマホの時計を見ると、8時半を過ぎていた。
　確か今日の早番メンバーには千紗子さんが入っていたはず。
　千紗子さんならもう出勤している時間だ、そう思って職場に電話をかけた。

　案の定、職場の電話に出たのは千紗子さんだった。
　遅番の私がこんな早くの職場の電話にかけてきたことにビックリした千紗子さんは、すぐに異変を察知してくれた。
　私は、事の次第を手短に話して、もしかしたら出勤が少し遅れるかもしれないから、そのことを館長と他の館員に伝えて貰うようにお願いした。
　
　「そういうことなら、私が通しで入るから杏ちゃんは今日は有休にしなさい。私から館長に伝えておくわ。」

　千紗子さんは少し硬い声でそう言って、電話口で「はぁー」と溜息を吐いた。
　それからいつものように柔らかい声で

　「一人で大丈夫？アパートの確認とか色々、着いて行ってあげたいのだけど流石に今日は私まで抜けられないから…」

　千紗子さんの温かい言葉に張りつめていた気持ちがほどける。
　思わず声が詰まって目に涙がじんわりと浮かんだ。

　「だ、大丈夫です…お休み、ありがとうございます。」

　「うん。気にしないで。何か困ったことがあったら遠慮しないで何でも言ってね。」

　「はい、ありがとうございます。また連絡します。」

　そう交わして通話を終了した。


　目じりに溜まった涙をそっと拭って、千紗子さんの優しさに、改めて感謝した。