恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!
 「そうだ、実家にも連絡しておかなきゃ。」

 自宅アパートの契約は成人している自分の名前でしたけれど、保証人は実家の父になっている。
 母ならこの時間に電話に出れるかもと思い、実家に電話した。

 思った通り母が出て、「朝から電話なんて珍しいわね。」と言った。

 千紗子さんに話したように火事のことを母に話すと、たちまち私は母の猛質問攻めに遭う。

 母は慌てた声で、「怪我はしてないの?」と一番に私に聞いてきた。
 「その時間に自宅にいなかったから無事だ」ということを伝えると、母は長い安堵の息を吐いた後、「良かった」と呟いた。
 その声を聞いて、ハッとした。
 私が思っているよりもずっと、母は私のことを心配しているのだ。
 
 それから火災保険の事や今後の住む場所のことなどを一通りやり取りした。
 住む場所については、「友人の家にいる」と誤魔化した。
 さすがに出会ったばかりの男性の家に居候するなんて、いくら母にでも言えない。 

 それと同時に普段あまり動揺する姿を娘の私にも見せない母がこうなのだから、父だといったいどうだったのかと、背中に冷たい汗が落ちた。
 
 「お父さんがこの電話取ってたら、全部話を聞く前にこっちを飛び出してあなたのところに行ってるわね。」

 と母が呆れながら言ったので、私の予想は間違ってないな、と思った。
 きっと父なら問答無用で私を実家に連れ戻すかも…

 そんな私の恐れを電話口で感じ取ったのか

 「お父さんには私から上手に伝えておくわ。でも、辛くなったらいつでも帰っていらっしゃい。時間はかかるけどここからでも通勤はできるのだから。」

 と母は言ってくれた。
 
 私のことを心配しながらも、私の気持ちを尊重してくれるそんな母に感謝して「ありがとう。」と言ってから電話を切った。





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