溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「どうしてこんな時間まで働いてたのか、話せるか?」
ソファに並んで座り、隣で案ずるような眼差しで見つめてくる彼に向き合った。
「今日は……本当にごめんなさい。実は、私が管理を任されていた書類がなくなったという話を聞いて、社内の思い当たるところを探し回ってたんです」
彼は相槌を打つだけで、なにも言わずに続きを促す。
「契約書などの重要書類は、総務のキャビネットで厳重に保管しているんです。たしかに私が営業担当から受け取ったあと、後輩にファイリングを依頼した経緯があって……。でも、総務部長から紛失の報告を受けて、すぐに後輩と探していたんです。でも、彼女は風邪気味だったから先に帰して、それからはひとりでずっと……」
「ひとりで、こんな時間まで!?」
「はい……。でも、指示をして管理が行き届いていなかった私の責任ですから。それに、ひとつの契約を取るために、どれだけの人が動いているかもわかっているので……紛失なんてあってはならないことで、なんとしてでも探し出したかったんです」
だけど、見つけられなかった。
寄り添うような穏やかな表情で、彼が聞いてくれるだけで涙がこぼれそうだ。