溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

 昨夜の出来事が形となって残っている。

 開けたワインのコルク、オープナー、水が入ったグラス。
 彼が用意してくれた高級浴衣。

 先に帰ろうとして探し回っていたメモには、私の連絡先がある。



 私は、どんな顔をしていたんだろう。
 彼に触れられて、ひとつになって……どんな声色で求めたのかな。


 そこだけ記憶が抜け落ちていて思い出せない。

 『君みたいな子を食べたかったんだ』って、彼の甘い声だけはなんとなく耳に残っているけれど……現実かどうかもあやふやで。


 だからこそ、彼と顔を合わせるのが気まずくて。



【おはようございます。昨日はお気遣いありがとうございました。用意していただいた浴衣、申し訳ないのでお気持ちだけいただきます。よく眠られているので、起こさないで帰ろうと思います。連絡いただけるのを待ってます――】


 今度は本当にお礼をメモに残し、連絡先のメモと一緒に、彼の携帯の横に並べた。



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