クリスマスは赤い誘惑
「何百面相してんだ?」
「わっ、樫岡くん……っ」

自販機の前にある簡単なソファスペースでホットコーヒーを飲んでいると唐突に声がかかった。こんな近くで声をかけられるまで気付かなかったことにびっくりする。

「相変わらず悩んでんのか」

楽しげにいいながら樫岡くんは自販機でブラックコーヒーを買うと隣に腰かけた。

「……そういうわけじゃないけど」
「中條はほんとに嘘が下手だな。誰が信じるんだよ」
「別に大したことじゃないわ」
「年下彼氏は言いたいことも言わせて貰えないほど狭量なのか?」
「もう、違うってば……樫岡くんて意地悪ね。どうぞごゆっくり」

飲み終えた缶を持って立ち上がった。ガコン、と缶を捨てたと同時に「中條」と声がする。

「何?」
「男なんてとりあえずエロい下着で迫ればほとんどお手上げだ」
「……っ!」

まるで悩みを当てられたかのようで心底驚いた。まさか、そんなこと分かるわけないのに。

「樫岡くんそれセクハラだからね!」

それだけ言い残して立ち去った。
「からかうつもりがアドバイスしちまったか」という呟きと樫岡くんの小さな笑い声は耳に届かなかった。
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