クリスマスは赤い誘惑
仕事場に戻るドアを開こうとしたタイミングでドアが開き、人影が現れた。避けるにはタイミングが遅れてぶつかってしまう。

「あっ、ごめんなさい…!」
「こちらこそ……中條課長。大丈夫ですか?」
「っ、佐野くん…!大丈夫、ありがとう……」

部屋を出ようとしていた彼に道を譲るように避ける。外回りなのか荷物を持っていた佐野くんはそのまま歩き去るかと思えば数歩先で振り返った。

「そうだ、中條課長」
「なに?」

続きを待つ私に佐野くんは意地の悪そうに口元を上げた。

「明後日、どうしたい?」

唐突にプライベートな空気と上司に対してではない口調に思わず胸が跳ねた。

「日曜日……」

考えるまでもなく、クリスマスイブだとすぐに分かる。
日曜日で、泊まりはできないかもしれないけど。

「……会いたい」

本音が漏れると佐野くんはふ、と笑って「それじゃ、空けといてください」と言い残してあっさりと歩いていった。短いやり取りの間だったけど会社ではあまり見せることのない顔にまだ少しどきどきする。

明日は土曜日。プレゼントを買いにいかないと、と気合いを入れて仕事に戻った。
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