執着系上司の初恋
ゴールはどこ? 後半
プロポーズされた頃、私は営業部門としてそれなりに評価され、棚ぼた的に広報に異動になって、彼とあまり会えなくなった頃だった。営業として数字を追いかけていく事に段々と苦しさを感じ始めていたから、正直嬉しかった。
だけど、それを発端として今まで仲がいいと思っていた先輩に「上に取り入って、真面目に働く方はたまらないよ」と言われた時、それなりに頑張っていたが、先輩に認めてもらってなかったんだとショックだった。

広報に行って、今までの経験なんてなんにも役に立たなかった。でも弱音を吐けば、先輩の言った通りだと思われそうで、必死に勉強してあらゆる資格をとった。そう、脇目もふらず、彼氏も顧みず。
忙しい中で、母子家庭である家に彼が挨拶に来て、父代わりに姉夫婦も来て和やかに食事会を終え、私も彼の実家である大阪に行った。
彼は、由緒正しき家柄の坊ちゃんだった。
私は、お笑い見てゲラゲラ笑って、だらしのない彼がまさかの坊ちゃんという出自に驚いた。同時にちょっと心配になった。母子家庭って問題ないのか。
実家に着くなり、彼はソファに深く腰掛け何も話さない。
どうやら、実家との折り合いが悪いようだ。
私はご両親に質問責めにされた。

彼のお母さんは、どうやら肩書きが大好きなようだった。
ご両親は、ご兄弟は、あなたは、どこの大学?どこにお勤め?どんな仕事?。。。うちの身内はね、、、と続く話は聞いててちっとも面白くない。
母子家庭についても、「私の姉夫婦だったら、文句言ったかもしれないけど、うちは大丈夫よ。うちのバカ息子のとこに来る子なんて、希少だもの。」と言われた。
彼の表情は固かった。

銀座のジュエリーショップで婚約指輪を選び、来週は彼のご両親の希望でホテルでの結納を控えていた。
その日は、彼の誕生日。いつもなら、時間の合わない私たちは家でケーキとワインでお祝いしていたが、その日に限って私は、彼の家へ行く前に限定スイーツを買いに出かけた。

彼の駅への乗り換え駅で、抱き合う男女がいた。

彼とお気に入りのカフェの女の子だった。
いつも2人で行っていたカフェの可愛らしいスタイルのいい女の子。
いつから?二人は付き合ってるの?来週結納なのに?会社にだって報告してるのに?
身体が、頭が冷たくなって動かなかった。

彼がこちらに気づいてフリーズした。
彼女も気づくと、泣きながら謝ってきた。何度も。
「ごめんなさい。私が好きだったんです。ごめんなさい。ちゃんと返すつもりだったんです。」

私は彼が何か言っていたけど、黙って帰った。駅で騒ぎたくなかった。
どう見ても彼女の方が細くて可愛くて彼とお似合いだったから。

彼とは、そのまま会う事なく別れた。
なんとなく気がついていたのを見て見ぬふりをしていたから。
彼の家の、見覚えのないコップも、トイレにあった生理用品も。

会社にはすぐには言えなかった。気まづさもあって、3ヶ月ほど経ってから言ったが、とても心配された。
何故なら、私が10キロ近く痩せてしまったから。
腫れ物に触るよう、気を使われる視線が苦しくてしょうがなかった。
家でも母の視線が居心地悪さを感じ、自分の居場所がなくなった様に思えた。

そんな時、体調も限界だったのか私は仕事中倒れ、入院した。
入院中、看護師さんも医者も普通だった。痩せすぎだと怒られた時、私は声も我慢できずに、ぼろぼろ泣いた。
静かな病室に嗚咽が響いた。
周りの目など気にせず鼻水を垂らしながらわんわん泣いた。
普通に怒ってくれたことが、嬉しかった。
年配の看護師さんは泣き出した私に何も言わず、長い時間優しく背中をさすってくれた。

その夜、暗くて硬いベッドの病室で、何ヶ月ぶりかぐっすりと寝ることができた。
次の日の朝、私の顔はお岩さんだったけど。

それから、三ヶ月後今の会社に転職した。

毎日、頑張り続けるしかない。
今までもこれからも。
頑張っていたら、幸せになれるよね。


私の幸せのゴールはどこにあるんだろう?
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