そのなみだに、ふれさせて。
ようやく気づいたらしい。
……"クソ鈍感"って言われてようやく気づくってどうなんですか、紫逢先輩。
「はあ、あんたのせいでほんと人生無駄にした。
でもいいわよ、あたし幸せになるから」
「や……え、ごめん、」
「次謝ったら殺すわよ」
キッ、と鋭く視線で射抜く彼女。
その迫力に紫逢先輩は「ごめん」と言いかけて、すごすごと口を閉ざした。……なんとも不思議な力関係の幼なじみだ。
「それで。
あたしが言いたかったのはそんなことじゃなくて。……あんた昨日大丈夫だったの?」
ふっと。
目元をゆるめたあけみ先輩が、そう言って紫逢先輩を見る。それにつられるようにして、わたしも彼を見た。
「ああ、うん。大丈夫だった。
ごめん、あけみに連絡入れてなくて」
「大丈夫ならいいけど……
旦那様が倒れたって聞いたから、心配したのよ」
……"旦那様が倒れた"?
それが誰を指すのか正確にはわからないけれど、彼が昨日午前中から学校を抜け出していたことを思い返す。……あれって。
「し、紫逢先輩……!
ほんとに昨日大丈夫だったんですか!?」
「うん。倒れたって言っても重体じゃないし。
……一応、息子として呼び出されただけだから」
息子、ってこと、は……
旦那様っていうのは、紫逢先輩のお父様のことだよね……?
「っ、ほんとにごめんなさい……!
そんな大変なときに、急に呼び出して……っ」