そのなみだに、ふれさせて。



リビングを出て、ぱたぱたと2階に上がる。

ななみの部屋のドアを、焦る気持ちをおさえながら静かに開けば。愛おしそうに寝顔を見つめていた南々ちゃんは、わたしに視線を向ける。



……泣いちゃ、だめ、だ。

泣いちゃだめ。ごめんなさいって謝るまでは。



「どうしたの? 瑠璃」



さっきのことなんて何もなかったみたいに穏やかな声で問いかけてくれる。

だけどそれだってきっと簡単じゃない。……だって、わたしが、傷つけたんだもん。



「っ……ごめんなさい」



自分を傷つけた相手に対して、そんな表情も態度も、普通は向けられない。

なのに南々ちゃんが今こうやってわたしに優しくしてくれるってことは。



これ以上ないくらい、大事にしてくれてる証拠。

気づくのが遅すぎた。……だからこれ以上無駄にしたくないの。




「っ、血の繋がったお母さんに、捨てられて……

わたし、わがまま言うの、怖くなっちゃって、」



実の母親に捨てられるんだから、わがままなんて言ったら、次はどうなるかわからない。

そんな自分勝手な自己嫌悪で、いつもわがままなんて言えなかった。



捨てられるのが怖いなんて、それすら自分勝手だ。

相手を思うフリをして、結局は自分のことしか考えてなかった。



「っ、南々ちゃん」



駆け寄って、ぎゅっと抱きつく。

そうすれば、当たり前のように抱きしめ返してくれた。



「ほんとに、傷つけて、ごめんなさい。

いっぱいわたしのこと思ってくれてたのに、ごめんね……っ」



彼女の肩に顔をうずめたら、ぬくもりがあまりにも優しくて、我慢していた涙がぽろぽろと落ちる。

「泣き虫ね」と笑った南々ちゃんの表情が安堵したように見えて、余計に涙が止まらなかった。



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