そのなみだに、ふれさせて。
お礼を述べるふたりに、息苦しくなりながら。
誤魔化すように尋ねれば、彼は「父さんについてくってさ」と困ったように笑う。
「皮肉なもんだよねえ。
……結局そばにいてくれんのは、最初からずっと一緒にいる母さんなのに」
「………」
「……それでも俺は。
青海さんのこと、一生恨めねえんだよ」
椛がそっと、隣に座る呉羽の髪を撫でる。
彼が青海さんのことを恨めない理由なんて、ただひとつだ。──何年も前からずっと、変わらない。
「あの人が……
呉羽と、瑠璃と、翡翠の本当の母親である限り。……俺は一生、あの人を恨み切れないままだ」
どこまでも強い人だ。
ああ、やっぱり教師が似合うな、なんて。彼はもうとっくに夢を叶えているのに、昔と同じことを不意に思った。
「いっちゃん、」
椛が、いつみを呼ぶ。
そのタイミングでかちゃりと扉が音を立てて、全員がそちらに視線を向けた。
「おかー、さん……」
「……あら、起きちゃった?」
眠そうに目をこすりながら、顔を出したのは瀬奈で。
抱っこしてあげたかったけれど、お腹が大きくなっている分、それはちょっと厳しい。歩み寄って、瀬奈の頭をそっと撫でた。
「もう一回、寝かせてくるわ。
悪いけど、ちょっと3人で話してて」
「いや、あとはいっちゃんがいてくれれば話できるし……
南々ちゃんも色々疲れてるだろうから、瀬奈と寝てくれていいよ」