Miseria ~幸せな悲劇~

メイ達三人が放課後に大野と会う少し前。美花は学校を早退したあと、風花のいる病院を訪ねていた。


「風花……おまえのために私、頑張ってレギュラーとったんだぞ。約束したよな…高校で一緒に試合に出ようって、私達二人で…日本一になろうって……」


美花は風花の病室で眠っている風花に語りかけていた。それは、風花が事故に遭う前、風花の進路について話しているときに、風花が言った言葉だった。


姉妹で日本一のサッカー選手になりたい。


美花はそんな風花の言葉を気恥ずかしく思いながらも、内心では、胸が熱くなるほど嬉しかった。そして二人は、高校でその夢を叶えることを誓った。


美花は誰よりも練習に励み、念願のレギュラーの座を誰もが認める形で獲得した。


風花も、凪瀬高校に進学するために、勉強とサッカーに今まで以上の努力をした。


しかし、その矢先、理不尽な運命は二人の約束の前に立ちはだかった。事故という避けられない運命と、巻き込まれた風花の死の宣告だ。


「………おかしいんだよ、みんな、医者も、父さん達も、もう諦めろって……風花は死ぬんだって………」


美花の瞳にはたくさんの涙が溢れていた。どんなに胸を痛もうが、どんなに残酷な現実を向けられようが流すことを拒み続けてきた涙が、この時、堰を切ったように流れた。


「ひどいよな……風花はこんなに生きたがってるのに……」


美花は風花の手を握りしめた。風花のたしかな体温が伝わってくる。


「私は風花と……離れたくないのにっ……!」


一滴の涙が、風花の顔にこぼれ落ちた。


まるで真っ暗な湖に小さな石ころが沈むように、それは風花の心の底に届いたのだろうか。ただ美花は祈るように言葉を重ねた。


その一つ一つが、風花の心に伝わると信じて。
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