Miseria ~幸せな悲劇~
「…ガ……イツ…アレ……タシジャナ……テ」
詩依は自分の席についてからもうなだれて何かをぶつぶつと呟いていた。詩依の言葉は聞き取れなかったが、メイはあれほど怯えた詩依を見るのは初めてだった。
「あいつ、もしかして……」
メイは不審そうに詩依の様子を見つめた。詩依は火事について何かを知っている……メイの中でおおよその結論がまとまった。
「はい、みんな席ついてー!」
担任の恵が教室に入ってきた。
「じゃあ、またあとでね」
祐希もその声に反応して自分の席に戻った。
「………あら、今日は美花学校休んでるのね。欠席の連絡はなかったけど、誰か聞いてないかしら?」
恵は教室を見渡した。生徒達は少しざわめきながら顔を見合わせた。
「メイはどう? 何か知らない?」
恵はメイを名指しで呼んだ。
「………いいえ、特に何も……」
メイは首を横にふった。そういえば、美花には昨日、火事の現場で会ったが、大野のこともあり、早退の理由について聞くことはできなかった。
「……そう、なら後で私から美花に連絡をいれてみるわね。じゃあとりあえず、ホームルームを始めましょう。今日は話すことが多くて……」
いつも通りに朝のホームルームが恵によって進行されていく。しかし、メイの中では粘っこくこびりつくような雑然とした不安が広がっていた。
何かがおかしい。何かが私のまわりで、少しずつ崩れている気がする。
このときのメイにはそんなひどく嫌な予感がしていた。そして、その予感は徐々に現実のものとなる。