Miseria ~幸せな悲劇~
「………お、おい、待てよ!」
美花は思わず少女を呼び止めた。そして気がつくと、なぜか美花は無我夢中でその瞳の持ち主を追いかけていた。
今自分が、屋敷のどこを走っているかも分からない。そもそも、この屋敷がどこなのかもだ。ただ、廊下にはたくさんの人形が横たわっている。その人形には、バケツで浴びせかけたように、鮮明な赤い血が飛びついていた。
「…………はぁ、はぁ、はぁ」
やがて美花は一つの部屋の前で立ち止まった。
その部屋の襖から真っ赤な血が流れている。まるで洪水で浸水したかのように、その血は美花の足元にまで達していた。
美花はその血を踏みながら、襖に手をかけた。なぜそんな行為に出たのか、自分でも説明がつかない。
例えるなら、夢の中で自分の行動をコントロールできないのと同じだ。
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
美花は一瞬だけ躊躇ったが、自然と体が動くままに、襖を開けた。
真っ赤な血が膝近くまで流れ出る。鉄を磨いて出た錆のような血の臭いが美花の嗅覚を刺激した。