極悪プリンスの恋愛事情
「ありがとう。わがままばっかでごめんね」
「どーいたしまして。それより早く着替えてきた方がいいんじゃない?風邪引くよ」
「あ………」
話に夢中になりすぎて自分の置かれている状況をすっかり忘れていた。
さっきまで平気だったのに、今更寒気がしてこなくもない。
「でも、せっかく岸本くんが来てくれたのに……」
「そんなの気にしなくていいよ。俺が勝手に来ただけだし、特に用があったわけじゃないから」
「本当に?」
「うん、ほんと」
なんとなく違和感はあったけど、岸本くんがそう言うなら………と納得することにした。
「じゃあ、更衣室行ってこようかな。ブレザー貸してくれてありがとう」
「まだ使ってて。濡れた格好で廊下歩いたら目立つでしょ」
「大丈夫!むしろもう目立ってると思うし………」
今頃、私と凛くんの噂が学校中に広まっているはず。
そんな最中に男子生徒のブレザーを羽織って現れたら、余計な誤解を招いてしまう。
羽織っていたブレザーを岸本くんに押し付けて「じゃあね」と、手を振った。
「ちょ、花野井ちゃん!?」
私を呼ぶ声に気づかないふりをして、振り返らずにその場から離れた。