君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている

へっぴり腰の、おかしな素振り。

深月もそう思ったんだろう。珍しく吹き出すようにして笑った。

それを見た樹里も、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに一緒に笑いだす。


なんだか、とても近づいていけるような雰囲気じゃなかった。

まるで付き合い始めのカップルみたいな、ぎこちないけど甘ったるい、見ていられないような空気を作っている。


いつから?

深月と樹里なんて、いままでそんなに会話したことなかったはずなのに。

深月は積極的に女子と話すタイプじゃない。必要があれば話すけど、なければ男子とばかり喋ってる。

唯一の例外はあたしだった。同じ剣道部で、喋ると言っても憎まれ口をたたき合うばかりだったけど。


女子に話しかけられてるところはよく見る。それに深月が面倒そうな態度で応じるのもセットで。

だからあんな風に、女子と気安げに笑い合う深月を見るのは、はじめてかもしれない。


あたしとだって、あんな風に自然に笑うことは滅多にないのに。

いったい、いつの間に?


ザワザワと、身体の中を冷たくて不快なものが這いまわるような感覚に、震える。

昔同じような感覚を味わったことを同時に思い出した。


気のせいだ、と頭を振る。

でもやっぱり、視線の先のふたりは楽しそうに笑っていた。




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