君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている

樹里が深月の傍らに立てかけられた竹刀を指して、何か言っている。

深月はおもむろに袋に入ったままのそれを手にとって、樹里に手渡した。


少し驚いたような顔の樹里が、ちょっと嬉しそうに竹刀を構える。

ああ、持ち方が全然ちがう。そもそも手が逆だし、そんなに鍔に手はつけないし、完全に開いちゃってる。

当然深月もそれに気づいて、樹里の手元を指して伝えている。

でも樹里に上手く伝わらなかったのか、深月が樹里の手をとって、正しい位置に導いた。


驚いた。

驚き過ぎて、一瞬時間が止まったように感じた。

でも実際に止まったのは時間じゃなく、あたしの呼吸だけだったみたいで、意識して呼吸をすると途端に心臓がバクバクとせわしなく動きはじめる。


樹里が、笑っていた。どこかくすぐったそうに。

それはさっき見た、ラブレターを受け取った先輩の表情によく似ていた。



「まさか……だよ、ね」


深月に何か言われ、樹里がおそるおそるといった感じで竹刀を振る。

深月は首を傾げて、また何かアドバイスをし、樹里がうなずき、もう一度振る。


教室が騒がしくてふたりの会話は聞こえないけど、「意外と重い!」なんて言ってるような気がする。

< 159 / 333 >

この作品をシェア

pagetop