明け方の眠り姫




 一月の終わり。長年一人でやってきたギャラリーを一旦閉めて、晴れて自由の身となった私は、久しぶりに休暇を取ってフランスへやってきた。


 フランスへは、これまでも絵の買い付けでたびたび訪れていた。仕事にかこつけて、留学中の和史をパリまで訪ねたこともある。彼との思い出が残る場所だ。

 今回は長い滞在になる予定だったのでホテルは取らず、父の代から付き合いのある画家のジェーンに頼み、私は彼女が所有するパリ20区のメニルモンタンにあるアパルトマンの一室を借りることにした。


「ナツキ、出かけるの?」

 部屋のドアに鍵をかけていると、隣室のセルジュが話しかけてきた。

 映画監督を目指しているという彼は、『赤い風船』という映画に憧れていて、映画の舞台となったこの土地に住むのが子供の頃からの夢だったらしい。

 メニルモンタンの素晴らしさを私に教えてくれたのは彼、セルジュだ。


「ええ、今日は美術館を巡ろうと思って」

「今日もかい? ナツキは相変わらず仕事熱心だね」

「仕事もあるけど、それ以前に絵を観ることが好きなのよ」

「そう。好きなことに時間を使うのは人生においてとても大切なことだよ」

 そう言いながらも、セルジュは私の顔色を見て苦い顔をした。

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