今の私は一週間前のあなた








家に帰るともうすぐ日付が変わる所だった

「…乃々。あなたがいてくれてよかった」

玄関の扉に手をかけて振り返って笑う


乃々がいなかったら


きっと私は
あの日の思い出を思い出すことができなかった
大切な約束なのに
もう、果たせないけどね…


それでも
忘れているままでいるより
思い出した方がずっといい




果たせなくても
約束は守るためだけのものじゃないと思ったから


誰かと交わした約束は
代わりにその人を縛る

縛られたことが幸福か否かは人それぞれだけれど

約束は相手がいないと成り立たないから

大切な約束をする相手がいたこと



それを忘れないために“約束”があるのだと思う




忘れないために
失くさないために

あるのだと思う





「…藍は…彼氏のことを忘れちゃダメだよ?」


乃々がいつになく真剣に言うから
一瞬きょとんとしてしまう

だってあり得ない
私が修也を忘れるなんて


「大丈夫!私は死んでも修也が好きだから!」


私は笑顔で答える自分に驚いた

…あれ?
ねぇ、私こんなに笑ってたっけ

こんなに幸せそうに修也が好きだって言ってたっけ

いつぶりか分からない自分に戸惑いを隠せない

それでも目の前で微笑む乃々をみて
乃々のおかげだと理解した






もう1人の“私”
それは私の暗闇で側にいてくれた人
話を聞いてくれた人
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