桃色吐息
「なんか腹へったな、飯食べてこうか?」

そんな風に誘ってくれるので、私は嬉しくて頷いていた。


けれども、あそこはって指差された店は、おじさんが入るようなチェーン店の丼やさんで、思わず嫌だって答える。

「もっとおしゃれなカフェとかが良い!」

そういって前に雑誌で載っていた近くのカフェの名前を出すと、「ぜってーいやだ!」って同じように返される。


さっきまで、なんでもわかってくれてる気がしたのに錯覚だったのかな?
なんだかよくわからないや。



「じゃあラーメンは?」

そう言われて指差したところは、有名な九州ラーメンのお店で、とんこつならコラーゲンだしなぁなんて思いながら、渋々そこで妥協してしまった。



いつもは並んでいる店だけど、遅い時間だったからか、すぐにカウンターに通されて待たずにすんだ。

メニューを見ると、デザートなんかもあったので、少しホットする。


「杏仁豆腐なんかも食べたいなぁ…」

エイジ君はさっさと自分のラーメンと高菜ご飯なんか注文して、お前はなんにする?なんて聞いてくる。
まだ決まってなかったけど、思わず普通のラーメンだけ頼んだ。



さっき借りたままのストールが私の膝の上にある。

彼の横顔をみると、首筋から胸元にかけて紅い痕が何ヵ所か付いていた…


それは昨日見覚えのある痕で、自分の胸元に手を当てた。
私にも、服を着たら見えないギリギリの胸元に、ビトがつけた痕があったから。



「ねえ、赤くなってるよ。」

私は知らないふりしてそう聞くと、急にエイジ君は真っ赤になって、かぶれたかな?何てごまかそうとする。

もうばれてるよ。そういう女の人が、やっぱりいるんだよね。


「ストールありがとね、洗って返すね…」

そういって隠そうとしている首筋をじっと見つめると、そんなの捨てちゃっても良いぜなんて強がっている。



そんなに待たずにラーメンが目に前に用意されると、私はゆっくりといつものペースで食べ始めた。
エイジ君はお腹が減っていたのか、蓮みたいにガツガツとさっさとラーメンを食べ終わると、今度はそこに高菜ご飯をいれて又食べ始めた。

そういう食べ方を知らなかった私は不思議そうにそれを見ていると、一口食べるか?なんて聞いてくる。

そのまま彼の使った蓮華で一口食べさせてもらうと、ああ間接キスだなんて思ってしまった。

お父さんはラーメンが好きだから、たまに食べたことがあったけど、今日のそれはなんだかとても美味しくて不思議な気分。

「こっちの方が美味しいかも?」
私は嬉しくて笑って又自分のラーメンも食べた。




不意にエイジ君が私の首筋に触れる。

いきなりの事でビックリして振り向くと、髪の毛が付いてたからと笑って言った。



もう、なんなんだろうこの人は…

いちいち無意識に私のツボにぐいぐい入ってくる…

好きって気持ちが止まらなくなる…

身体中が火照ってくるのは、きっとラーメンの暑さのせいじゃなかった。

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