桃色吐息
ランチを食べ終わった後は、また公園まで戻って、海の近くまで歩いていった。

海水浴とかはできない場所だけど、海って眺めてるだけでいいよね。

左手はずっとエイジ君と繋いだまま、右手にはさっきのペンギンがいる。



日差しが強くて暑かったけれども、自販機で飲み物を買って、木陰を探して海を眺めながら芝生の上になんとなく座った。


「なんか気持ちいいね、遠くまで見えるね。」


エイジ君はそのまま芝生に横になって、一緒に空と海をながめていた。


「なんか、ずっとこうしてたいよなあ。」


もうすっかり夏の空で、少しだけそよぐ海風が心地いい。




「もうすぐ夏休みだね、エイジ君はなんか予定あるの?」

「そうだなあ、バイトしてライブ行って、そんぐらいかなあ・・・桃は?」

そういえば、毎年夏休みっていっても、何もしてこなかったなって思い出す。

海水浴もキャンプも花火や夏祭りも行った事ないし、毎年一日だけBabyさんの招待でサマソニに行ってた位だ。


「今年も何にも予定ないなあ・・・蓮はきっとカオリさんとかとライブ行きまくるんだろうなあ・・・」


でも、今年はエイジ君が居るんだよなあってなんだか楽しくなる。2人でどっかに行ければいいなあ、どこでもいいんだけど。


「2人でまた、どっかいきたいな。」

彼もそんなことを言ってくれるから、この前の事を思い出す。


「私も、ライヴ連れてってほしいなあ・・・」

前もはっきりしないままうやむやになっていたから、もう一度きくと、エイジ君は難しそうな顔をした。


「俺の行くようなライヴは、女子は危ないぜ・・・怪我するかもしれないし。」

そんな風にいうけど、あの人とはライヴ友達って言ってたくせになあ・・・

「でも、女子も居るでしょう・・・」


「いるけどさ、慣れてるやつならいいけど、桃にはなあ・・・
まあ、なんか危なくなさそうなの考えとくわ。」


そんな風にいってくれたので、ちょっと安心した。


危ないってどんなのかなあ? モッシュとかダイブとかなら、サマソニで見たことあるからなんとなくわかるけど。


「俺さ、ライヴいくと絶対怪我すんの、ちょっと血が出るくらい暴れるほうがなんかスカッとするって言うかなんというか。あとさ・・・」

エイジ君はなんだかちょっと恥ずかしそうに続ける

「俺が行くようなとこ、男ばっかだから、桃を見せたくないって言うか・・・」


「なにそれ?」

私は笑って聞き返していた。



「絶対みんな桃のこと気に入っちゃうと思うしなあ・・・なんかヤダそういうの。」



ああ、そういうことかあ・・・
なんか喜んで良いのかな、そういうのは。

でも、あの人が来るとこなら行って欲しくないなってちょっとだけ思うし、そこまで束縛するのもなんだか嫌だし、やっぱり一緒に行きたいなあなんて思う。



さっき買ってもらったペンギンを抱きしめる。
やわらかくて気持ちよくて、エイジ君になんだか似てるなあ。


喉が渇いてさっき買ったアイスティを飲むと、まだひんやりとしていて少し熱さが和らいだ。



どれくらいそうしていたかわからないくらいずっとそこにいて、いつの間にか夕暮れになっていく。



あ、そうだもうすぐ門限じゃない・・・

日が長くなっていたのですっかり忘れていた。



「そろそろ帰らないとやばいな。」


エイジ君もちょっと慌てて、私たちは駅まで小走りに帰った。







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