君の背中に見えた輝く翼に、私は恋に落ちました
そのあと、桐生くんからの

話を聞いて、わたしの秘密が

何故知れ渡ることになったかを

知った。

桐生くんに振られた時田先輩が、

足を痛めてしまって更衣室で

義足を外した、あの日のわたしの

写真をあちこちにメールしたらしい。

振った理由がわたしだったからだと

桐生くんは言った。

「春瀬、悪かった。俺のせいで」

頭を下げる桐生くんは

膝の上で拳を握りしめていた。

「桐生くんのせいじゃないよ。

わたしがいけなかったんだよ…

自分を守るために隠し事してたんだから」

それにね…

大好きな人をそんな風に

追いつめてしまった事の方が

辛いんだよ?

だからいつもみたいに笑って欲しい。

「それにね…ずっと思ってたの。

みんなに隠し事したりするの

嫌だなって」

「流羽…本当に、変わったね」

そう言って笑う璃子の笑顔を見て

わたしも笑った。

「でしょー?

みんなのおかげだよ。

本当にありがとう」

わたしは精一杯の笑顔で答えた。

「これからも仲良くしてね!

流羽ちゃん」

「わたしもねー!流羽」

ここに来た時は重苦しい雰囲気だった

聖奈ちゃんや日向くん。

その2人が笑顔になってくれただけで

わたしは幸せだよ。

こんなに思ってくれる人、

いないよね。

ありがとう。

「桐生くん…

これからも仲良くしてくれる?」

「春瀬…それって」

桐生くんがわたしの名前を

呼んだ瞬間…

日向くんが突然立ち上がった。

「流羽ちゃん!それって…

翼の気持ちに答えるってこと!?」

「え?なんのこと?」

桐生くんの気持ちって…?

???

わたしは首を傾げた。

すると、璃子と聖奈ちゃんが

大きな溜め息をついて、

呆れ顔でわたしを見つめる。

そして日向くんに至っては

固まっている…

ん?なに!?この雰囲気は…

「流羽…あんたは話ちゃんと

聞いてたの?

時田先輩を振った理由」

「え?振った理由?」

璃子に凄まれて考える。

えーっと…

桐生くんが時田先輩を振った理由…

うーん…

ん?もしかして…

「あっ…、えっ!?わたし!?」

桐生くん以外のみんなが、

わたしを見て、頷いている。

わたしは本当に馬鹿で鈍感だ!

謝る桐生くんを

見ていたくない一心で

その部分をすっ飛ばしていた。

「春瀬、話したいから送るわ」

「えっ!?いやーあのー…」

「じゃあ」

そう言ってわたしの手を引いて

歩き出す桐生くんに

みんなが手を振る。

わたしはみんなを振り返り

頭をブンブン振って見せたけど…

「「行ってらっしゃーい!」」

ニヤニヤしながら笑顔で

手を振るみんな。

いやいや!!無理!!

桐生くんと2人きりなんて

無理だよー!!

わたしの小さな抵抗は

あっさりと流された。

そしてわたしは桐生くんに手を

引かれたままホームまでの道を

歩いていた。

途中公園を通り過ぎた桐生くんが

引き返して公園の中に

わたしを引いて入っていく。

わたしはドキドキしていた。

わたしの手を握っている

桐生くんの温かい温度に

鼓動は一気に加速していく。

いくら鈍感なわたしでも

今からどんな話をするのかくらいは

分かっている。

公園の街灯の下で立ち止まり、

振り返る桐生くんの表情は、

すごく真剣で…

手を握ったまま

わたしを見つめる桐生くんを

まともに見れないわたしは下を向く。

「春瀬」

優しい声が頭上から聞こえてきて、

わたしはそっと顔をあげた。

っ!!!

桐生くんは穏やかな優しい眼差しで

わたしを見つめている。

桐生くんの瞳をわたしは

逸らすことができなかった。

「…は、はい」

「俺、春瀬が好きだ。

だから俺の傍にずっといてくれないか」

大好きな人にそんな風に言って貰える

わたしは幸せなんだと思う。

けど…

わたしは…

「こんなわたしのことを…

そんなふうに想ってくれるのは…

すごく嬉しい。

でも…ごめんなさい」

だって、こんなわたしは

桐生くんに相応しくないよ…

足もない、火傷の跡もある。

こんな傷だらけのわたしには

綺麗に輝く桐生くんは

眩しすぎる…

「俺のこと嫌い?」

「そんなことないよ!

でも…わたしには無理だよ」

わたしは握られた手を

そっと離して

公園から飛び出した。

「春瀬!」

桐生くんの声に振り向かないまま

わたしはホームまでの道を

走り続けた。

はぁ、はぁ

わたしは力の限り走り続けた。

わたしも好きだって言えたら

どんなに良かっただろう。

桐生くんの気持ちに応えることが

できたら、どんなに幸せだろう…

そう思った。

ホームまで、あと少しの距離…

わたしは立ち止まり、

息も絶え絶えに

夜空で輝く月を見て

溢れる涙を止められないまま、

泣き続けた。

幸せなはずなのに…

好きな人に好きって想ってもらえて

すごく嬉しいはずなのに…

「…うぅっ…ひっ…っうぅ…

胸が…痛いよー…」

どうして、わたしには

足がないの?

背中に火傷の痕があるの?

考えたって、変わらないことくらい

分かってる…

それでも、考えちゃうの。

どうして、わたしは

普通の…

みんなと同じじゃないのかって。

もし、自分が璃子や聖奈ちゃんと

同じような女の子だったら…

桐生くんの言葉を、

気持ちを…

受けとめることが出来てたかも

しれないのに!

桐生くんが、人生で初めての…

大好きだと想えた男の子なのに!

わたしは、涙が枯れるまで

泣き続けた…
















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