君の背中に見えた輝く翼に、私は恋に落ちました
2人と他愛ない話をして
過ごしていると、
主治医の先生を連れて
璃子が戻って来た。
傍らに立った先生が、
おもむろに、手を出して
開いた。
「事故の影響でむくんでいたので
外していたんですが…
春瀬さんの薬指にはめられていた
指輪です」
恐る恐る手を伸ばし、
その指輪を手に取った。
ジッと見つめて、指輪を
薬指にはめると、何故か
安心して、涙が溢れた。
どこか見覚えのある指輪…
とても大切で、心が温かくなる
不思議な感覚。
収まるべき所に収まったような
サイズがぴったりの指輪を
見つめて撫でる。
「これです…
わたしが探していたもの…
よかった、失くしてなくて」
溢れる涙と共に
わたしは、笑顔で答えた。
そんなわたしに、先生が
「事故で運ばれて来たとき、
ほとんど意識がないのに、
この指輪をすごく気にかけて
いらっしゃいました」
「そうなんですか…
わたしもよく分からないんですが
これだけは、絶対に
失くしちゃいけないって
思ってました。
でも、自分で買った記憶がない
ものなんです…」
指輪を撫でながら、
先生に話した。
「今は、事故直後なので
記憶が退行しているため、
思い出せないでしょうが、
なにかの、きっかけで
思い出す事もあるかも
しれません。
でも、今は焦らずに
怪我を治す事に専念しましょう」
先生の言葉に、わたしは頷いた。
そして、それから3日後に
わたしは退院した。
幸い、怪我は擦り傷だけで
傷跡もほとんど残らなかった。
ただ、記憶だけが戻らないまま…
璃子と共に、高校までの道を
歩いていると、秋風が木々を
揺らして、さわさわと
音を奏でている。
辿り着いた学校は、
大きな建物が3つあって、
そのどれもが綺麗だった。
「クラスのみんなも、
流羽が来るのを、楽しみに
してるんだよ!」
微笑みながら、肩を抱く璃子。
「クラスの人も、わたしのこと
知ってるの?
足のこと…」
不安で押し潰されそうな
わたしに、璃子ははっきりと
答えた。
「もちろん知ってる。
体育祭の話し合いの時に、
流羽が、自分から話したんだよ」
「え…?わたしが?」
笑顔で頷いた璃子を、見上げ
わたしは、驚きを隠せなかった。
隠したくて、知られたくなくて
必死だった、わたしからは
想像も出来ないことだったから。
「流羽は、高校に入って
変わった。
すごく、強くなったよ」
誇らしげに笑う璃子に、
わたしも笑顔を返した。
教室の扉を開けると…
一斉に振り返ったクラスの人。
心臓が早鐘を打ち、鼓膜を
揺らすほど、ドクドク鳴っていた。
「おおー!!
春瀬が帰って来たぞ!!」
「流羽ちゃん、退院おめでとう」
口々に喜びの言葉を掛けて
拍手してくれる、クラスの人達に
わたしは心から安堵した。
その時…
強い視線を感じて
その視線の先に目をやると、
病室で1度だけ会った、
桐生くんの姿が見えて…
さっきとは違う、ドキドキと
胸が痛くなるような感覚に
わたしは戸惑った。
桐生くんは、わたしを
見つめたまま、柔らかな笑みを
浮かべていた。
思わず見惚れてしまうような
綺麗な顔立ちと佇まいに
身体中が熱くなった。
その後、先生からの説明で
わたしの記憶が高校に入る前に
戻っていることを、
クラスの人達に向けて
話した。
「そんな訳で、みんなのことは
忘れてしまっているが、
無理に思い出させないようにな!
思い出させようとすると、
身体に負担がかかるらしいから
いつも通り、過ごすこと!」
それを聞いて、クラスの人達は
頷いた。
その日は、みんなと
他愛ない話をして過ごした。
自分の全てを知っていても
みんなの事を、
忘れてしまっていても
避けたりせずに、普通に
接してくれる、クラスのみんなに
伝えきれない程の感謝の
気持ちでいっぱいだった。
放課後…
璃子に連れて来られたのは、
体育館だった。
わたしは、桐生くんから
誘われて、バスケ部の
マネージャーをしているらしい。
運動が苦手で、男の子も苦手な
わたしが、マネージャー…
到底信じられない行動に、
唖然とするばかりだった。
事情を知っているバスケ部の
部員は、何も聞かずに
温かく迎え入れてくれた。
そして、
璃子にマネージャーの仕事を
教わりながら、懸命に
こなしていく。
その時だった…
背後で大きな音が響いて
ビクついた、わたしの瞳に
映ったのは…
ゴールに手をかけて
ぶら下がる、桐生くんで、
その背中に大きな
輝く翼が見えた。
「綺麗…」
コートに降り立つ瞬間も
まるで、地上に舞い降りた
天使のようで…
わたしはその姿を
ジッと見つめて、
思わず拍手していた。
そんなわたしに気付いて
こっちに振り返った
桐生くんは、少し驚いたような
顔をして、すぐに笑顔になった。
っ!!!
目が合っただけなのに、
わたしの心臓はドキドキと
鳴り続けている。
なんだろう…
どうして、こんなにも
ドキドキするのかな?
胸に手を当てて、
不思議に思っていると、
桐生くんが、真っ直ぐ
わたしの方へと歩いてくる。
少しずつ縮まる距離に
わたしの心臓は更に
ドキドキして、痛いくらい。
そして、わたしの目の前で
立ち止まった桐生くんは、
わたしを見下ろしながら、
ずっと黙っていて…
わたしは視線を彷徨わせた。
何か言った方がいいのかな?
わたしは、さっきの光景を
思い出しながら、
「すごいね、桐生くん。
背中に翼が生えて見えたよ…
すごく綺麗だった」
まともに目を合わせることが
出来ないわたしは、俯いたまま
思ったことを伝えた。
その時、頭上から
クスッと笑う声がして
そっと見上げると…
桐生くんは、笑顔で
「初めて会った時と同じこと
言ってる」
と、わたしの頭をポンポンして
優しい声色で言った。
「え?わたし、初めて会った時も
こんな事、言ったの?」
「おう、そんで
言うだけ言って逃げた」
顔が真っ赤になるのが分かる。
初めて会った人に、
突然そんな事言って、挙句
逃げたって…
わたし、最悪なことしたんだ。
「ご、ごごめんなさい!」
頭を思いきり下げて
謝ると、桐生くんは
また笑って…
「それも言ってたな」
と、可笑しそうに
眉を下げた。
わたしの知らないわたしも、
今と同じ事をしてたんだ…
なんだか申し訳ない。
でも、桐生くんが
笑ってくれてるから
嫌な気持ちにはさせてないって
ことだよね。
それが分かっただけで
こんなにも安心してる自分がいる。
男の子に対して、
怖い以外の感情を持ったことが
ない、わたし。
でも…桐生くんには
怖さよりも、安心感があるのは
きっと特別な友達だからだよね。
あの日、璃子や聖奈ちゃん
日向くんも言ってたし…
『特別な存在』だって。
わたしは、1人納得していた。
過ごしていると、
主治医の先生を連れて
璃子が戻って来た。
傍らに立った先生が、
おもむろに、手を出して
開いた。
「事故の影響でむくんでいたので
外していたんですが…
春瀬さんの薬指にはめられていた
指輪です」
恐る恐る手を伸ばし、
その指輪を手に取った。
ジッと見つめて、指輪を
薬指にはめると、何故か
安心して、涙が溢れた。
どこか見覚えのある指輪…
とても大切で、心が温かくなる
不思議な感覚。
収まるべき所に収まったような
サイズがぴったりの指輪を
見つめて撫でる。
「これです…
わたしが探していたもの…
よかった、失くしてなくて」
溢れる涙と共に
わたしは、笑顔で答えた。
そんなわたしに、先生が
「事故で運ばれて来たとき、
ほとんど意識がないのに、
この指輪をすごく気にかけて
いらっしゃいました」
「そうなんですか…
わたしもよく分からないんですが
これだけは、絶対に
失くしちゃいけないって
思ってました。
でも、自分で買った記憶がない
ものなんです…」
指輪を撫でながら、
先生に話した。
「今は、事故直後なので
記憶が退行しているため、
思い出せないでしょうが、
なにかの、きっかけで
思い出す事もあるかも
しれません。
でも、今は焦らずに
怪我を治す事に専念しましょう」
先生の言葉に、わたしは頷いた。
そして、それから3日後に
わたしは退院した。
幸い、怪我は擦り傷だけで
傷跡もほとんど残らなかった。
ただ、記憶だけが戻らないまま…
璃子と共に、高校までの道を
歩いていると、秋風が木々を
揺らして、さわさわと
音を奏でている。
辿り着いた学校は、
大きな建物が3つあって、
そのどれもが綺麗だった。
「クラスのみんなも、
流羽が来るのを、楽しみに
してるんだよ!」
微笑みながら、肩を抱く璃子。
「クラスの人も、わたしのこと
知ってるの?
足のこと…」
不安で押し潰されそうな
わたしに、璃子ははっきりと
答えた。
「もちろん知ってる。
体育祭の話し合いの時に、
流羽が、自分から話したんだよ」
「え…?わたしが?」
笑顔で頷いた璃子を、見上げ
わたしは、驚きを隠せなかった。
隠したくて、知られたくなくて
必死だった、わたしからは
想像も出来ないことだったから。
「流羽は、高校に入って
変わった。
すごく、強くなったよ」
誇らしげに笑う璃子に、
わたしも笑顔を返した。
教室の扉を開けると…
一斉に振り返ったクラスの人。
心臓が早鐘を打ち、鼓膜を
揺らすほど、ドクドク鳴っていた。
「おおー!!
春瀬が帰って来たぞ!!」
「流羽ちゃん、退院おめでとう」
口々に喜びの言葉を掛けて
拍手してくれる、クラスの人達に
わたしは心から安堵した。
その時…
強い視線を感じて
その視線の先に目をやると、
病室で1度だけ会った、
桐生くんの姿が見えて…
さっきとは違う、ドキドキと
胸が痛くなるような感覚に
わたしは戸惑った。
桐生くんは、わたしを
見つめたまま、柔らかな笑みを
浮かべていた。
思わず見惚れてしまうような
綺麗な顔立ちと佇まいに
身体中が熱くなった。
その後、先生からの説明で
わたしの記憶が高校に入る前に
戻っていることを、
クラスの人達に向けて
話した。
「そんな訳で、みんなのことは
忘れてしまっているが、
無理に思い出させないようにな!
思い出させようとすると、
身体に負担がかかるらしいから
いつも通り、過ごすこと!」
それを聞いて、クラスの人達は
頷いた。
その日は、みんなと
他愛ない話をして過ごした。
自分の全てを知っていても
みんなの事を、
忘れてしまっていても
避けたりせずに、普通に
接してくれる、クラスのみんなに
伝えきれない程の感謝の
気持ちでいっぱいだった。
放課後…
璃子に連れて来られたのは、
体育館だった。
わたしは、桐生くんから
誘われて、バスケ部の
マネージャーをしているらしい。
運動が苦手で、男の子も苦手な
わたしが、マネージャー…
到底信じられない行動に、
唖然とするばかりだった。
事情を知っているバスケ部の
部員は、何も聞かずに
温かく迎え入れてくれた。
そして、
璃子にマネージャーの仕事を
教わりながら、懸命に
こなしていく。
その時だった…
背後で大きな音が響いて
ビクついた、わたしの瞳に
映ったのは…
ゴールに手をかけて
ぶら下がる、桐生くんで、
その背中に大きな
輝く翼が見えた。
「綺麗…」
コートに降り立つ瞬間も
まるで、地上に舞い降りた
天使のようで…
わたしはその姿を
ジッと見つめて、
思わず拍手していた。
そんなわたしに気付いて
こっちに振り返った
桐生くんは、少し驚いたような
顔をして、すぐに笑顔になった。
っ!!!
目が合っただけなのに、
わたしの心臓はドキドキと
鳴り続けている。
なんだろう…
どうして、こんなにも
ドキドキするのかな?
胸に手を当てて、
不思議に思っていると、
桐生くんが、真っ直ぐ
わたしの方へと歩いてくる。
少しずつ縮まる距離に
わたしの心臓は更に
ドキドキして、痛いくらい。
そして、わたしの目の前で
立ち止まった桐生くんは、
わたしを見下ろしながら、
ずっと黙っていて…
わたしは視線を彷徨わせた。
何か言った方がいいのかな?
わたしは、さっきの光景を
思い出しながら、
「すごいね、桐生くん。
背中に翼が生えて見えたよ…
すごく綺麗だった」
まともに目を合わせることが
出来ないわたしは、俯いたまま
思ったことを伝えた。
その時、頭上から
クスッと笑う声がして
そっと見上げると…
桐生くんは、笑顔で
「初めて会った時と同じこと
言ってる」
と、わたしの頭をポンポンして
優しい声色で言った。
「え?わたし、初めて会った時も
こんな事、言ったの?」
「おう、そんで
言うだけ言って逃げた」
顔が真っ赤になるのが分かる。
初めて会った人に、
突然そんな事言って、挙句
逃げたって…
わたし、最悪なことしたんだ。
「ご、ごごめんなさい!」
頭を思いきり下げて
謝ると、桐生くんは
また笑って…
「それも言ってたな」
と、可笑しそうに
眉を下げた。
わたしの知らないわたしも、
今と同じ事をしてたんだ…
なんだか申し訳ない。
でも、桐生くんが
笑ってくれてるから
嫌な気持ちにはさせてないって
ことだよね。
それが分かっただけで
こんなにも安心してる自分がいる。
男の子に対して、
怖い以外の感情を持ったことが
ない、わたし。
でも…桐生くんには
怖さよりも、安心感があるのは
きっと特別な友達だからだよね。
あの日、璃子や聖奈ちゃん
日向くんも言ってたし…
『特別な存在』だって。
わたしは、1人納得していた。